妻と越す七十の坂温め酒 谷川 水馬
『この一句』
本屋に行くと高齢化社会を反映して「老い方」に関する書籍や雑誌がたくさん並んでいる。最近では「70歳の壁」と「80歳の壁」がよく売れているという。健康で長生きする食事術や病気との向き合い方、ボケない暮らしなどを解説したものだ。ちょっとだけ立ち読みしたが、人生100年時代を全うするためには、70歳からの食事、ライフスタイル、心がけが大事だと説いている。
掲句の作者はその70歳の坂に差し掛かり、奥様と一杯やりながら、坂の越え方を思案しているのであろう。これまで歩んできた道のりを振り返り、これから越えて行く坂の先に思いを馳せる。しみじみとした夫婦の情愛が伝わり、季語「温め酒」が効いてほのぼのとした気持ちになる。
定年が55歳や60歳だった昭和の時代は、60歳の「還暦」を区切りとして、人生を考える人が多かった。しかし平均寿命が延び、定年も65歳に延長された今は、「古希」の70歳が大きな節目といえる。「70歳の壁」の著者によれば、体と脳を100歳まで若々しく保てるかどうかは、70歳が分岐点になるという。本には「美食のすすめ」「走るより歩く」「仕事と勉強は死ぬまで」など、老いを遅らせる秘訣が紹介されている。
作者は数年前に大病を患い、夫婦二人三脚で乗り越えられたと聞いている。ともに今68歳という二人が越える「七十の坂」には格別の思いがこもっているに違いない。温め酒もほどほどにして、次の「八十の坂」に向けどんな暮らし方をするか、奥様とじっくり語り合ってほしい。
(迷 22.11.06.)
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