蔦巻くや故郷の家は朽ち果てて 工藤 静舟
『合評会から』(日経俳句会)
てる夫 どこの地方か、北の方ですかね。蔦が巻く故郷の秋の句です。しんみりします。
方円 やっぱり古い家で、もう誰も住んでなく朽ち果てている。「蔦巻くや」がいい。
双歩 まあ割とよくある光景だと思いますけど、その廃屋になったような荒れた家がなんとなく寂しさを感じさせる句だなと思った。
反平 ドライブしているとそれこそ廃屋だらけ。これからの日本はどうなるんだろうとまで考えてしまう。
操 わが街にもこのような情景があちこちに。蔦が覆い廃墟と化し、かつての営みの影はない。
* * *
勉学に就職へと都会に出て来た地方人にとって、故郷の家の行く末は気になるものだ。この句の作者の両親はすでに亡いのだろう。兄弟姉妹が後をうけて住んでいる様子もない。人の住まなくなった家は朽ちるのが早い。作者は古家に蔦がからまった状態を見ている。おそらく言葉もなく佇んでいる。「廃屋と決まりし生家いわし雲」と、以前わが事を詠んだ筆者にはよくわかる心情である。さて、この家をどうしようかと。思い出の詰まった家を結局は毀(こぼ)つ羽目になるのだろうか。一家屋のことに過ぎないのだが、日本全体の縮図を見るような句だと思う。
(葉 22.10.28.)
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