屋形船月見も忘れもんじゃ焼き   石丸 雅博

屋形船月見も忘れもんじゃ焼き   石丸 雅博

『この一句』

 私は屋形船に乗ったことがない。もんじゃ焼きも食べたことがない。そんな事情から、掲句を注目せずに終わったが、合評会の場では、東京湾における遊覧船のことが大きな話題となった。中でも話題の中心になったのは何と、航海の楽しさや、海上の夜景ではなく、もんじゃ焼きだった。句の作者ら、もんじゃの「通」によって、句会は大いに盛り上がる。
 さて、もんじゃ焼きとは? お好み焼きに似た食べ物だが、生地の小麦粉を相当に多めの水で溶き、ソースなどの調味料を混ぜて鉄板の上で焼き上げるものだという。東京の下町の駄菓子屋には昭和四〇年代から、もんじゃ焼きの店があったそうだが、客層が子供たちから次第に観光客などに変わり、店はやがて東京・中央区の月島あたりに集中して行く。そして近年は夜の東京湾周遊の観光船には欠かせない料理となって行ったという。
 句の作者はこんな風に話していた。「もんじゃは安くて美味いですよ。料理込みの船の料金は、もんじゃなら一人七千円で済みますが、天ぷらなどを頼むと一万円ですからね」。こんなことも話していた。「もんじゃを食べ出すと、美味しくて止められない。乗客は海の夜景などに目もくれないで食べ続けるから、船は遠くまで行かない」のだという。東京湾にそんな観光があったのか! 当方は新たな知識に出会い、驚くばかりであった。
(恂 22.10.23.)

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