スケボーの子の股座から鰯雲   中嶋 阿猿

スケボーの子の股座から鰯雲   中嶋 阿猿

『おかめはちもく』

 スケートボード(スケボー)は二十世紀の後半、若者たちの間で始まったスポーツだ。昨年の東京オリンピックで、スケートボードは初めて夏季オリンピックの追加種目に採用された。しかも、日本の選手が大活躍をしたこともあり、人気を集めている。
 日本では路上や公園などで器物を壊したり、通行人との接触など危ないこともあり「スケボー禁止」の場所が多い。そんな中、世田谷区にある駒沢オリンピック公園にはスケートボード専用の施設があり、若者で賑わっている。作者はジョギングをしている最中にでも、スケボーに熱中している若者を見たのかもしれない。宙に舞ったスケートボーダーの脚の間から鰯雲がのぞいた、というのだ。いかにも現代的な情景を切り取った独創的な句だと思った。
 ところが、この句を採った木葉さんから「子の股座(またぐら)から」は八文字で、さらに、鰯雲が股座から飛び出したわけじゃないから「から」はおかしい、と指摘があった。すると、『「股座に」にすればいいんだよ』と何人かの声。水牛さんは「こういうウィットに富む句は、定型を守らなければ駄目。読み直せば分かるんだから」と手厳しい。確かに「スケボーの子の股座に鰯雲」の方がはるかに良い。助詞の選び方一つでがらりと変わる好例だ。
 それとは別に筆者は、「股座」というちょっと下世話な言葉がどうにも気になる。「股座」を使わない言い方はないのか。例えば次のように直すと原句から離れ過ぎ、印象が変わってしまうだろうか。「スケボーの子の脚長し鰯雲」
(双 22.10.04.)

この記事へのコメント

  • 今泉恂之介

    原句は「一句一章」の句である。一つの流れの中から一つの状況が浮かび上がる句と言えるだろう。一方、「双氏」の直しを入れた「スケボーの子の脚長し鰯雲」は上五+中七と下五の間に切れが認められる「一句二章」の句となる。後者は即ち、読者各自がそれぞれの心にいくつかの情景を思い描くことのできる句と言える。即ち原句は、一句一章の句「双」氏が直しを入れた句は二句一章となる。かつては二句一章の詠み方が主流と言える時代があったが、最近は新聞の俳句投稿欄の句を初め、各句会の作品に観る句でも一句一章型が主流を占めている。どちらの読み方いいのかは、一概に言えないが、直しの句をじっくり味わうことにより、俳句という文芸の持つ広さを感じられるのではないだろうか(恂)
    2022年10月08日 12:51