名水をたづねて久留里秋あかね 廣田 可升
『この一句』
筆者は福岡出身で、千葉に住んではいるが、現役時代は職場と自宅の往復だけで終わり、地元千葉のことはあまり詳しくない。君津市に久留里という町があるのを知ったのも割と最近のことだ。句友に久留里出身者がいたのと、各地の町を紹介するテレビの情報番組で、久留里特集を観たことなどで認識したに過ぎない。博識の水牛さんによると、「上総を掌握するためのポイントだった久留里周辺は中世から争奪戦が繰り広げられ、太田道灌も攻めた。北条もやって来た。里見氏が山のてっぺんに城を構えて、それが徳川時代にも受け継がれ、今でも観光ポイントとして残っている。山の上なのに井戸を掘ったら水が出たと言われ、名水が出るので良い酒も出来ます」とのこと。
掲句の作者も千葉に住んではいるが、出身は関西。やはり千葉はさほど詳しくないのか、最近は奥さんと連れだって、千葉県内をあちこち探索しているという。なるほど、遠くに行くだけが旅ではない。近くの知らない町をぶらりと訪れるのも乙なものだ。というわけで先日、久留里を訪ねたそうだ。平成の名水百選に選ばれた名水の里として人気があり、遠方から訪れる人も多いとか。復元された久留里城から見た町の眺めが素晴らしかったという。
「訪ねてくるり」の語感が心地よく、作者自身もお気に入り。迷哲さん指摘の「トンボがクルリと秋あかね」の語呂合わせも隠し味に、「久留里」の地名を巧みに詠み込んだ手練れの一句。久留里出身の愉里さんからの得票も折り込み済みだったか。
(双 22.09.22.)
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