朝摘みの葡萄の甘さ甲斐の郷   篠田  朗

朝摘みの葡萄の甘さ甲斐の郷   篠田  朗

『この一句』

 知人から甲州の「巨峰」が送られてきた。立派な箱の中に、薄葉紙に包まれた大房がクッションにくるまり寝かされている。まさに箱入り娘である。農園の能書きパンフレットが添えられていて、「朝採り直送」とあり、収穫日が手書きで入っている。前日収穫してすぐ発送したものと分かる。うやうやしく取り出してぶら下げるとずっしり重い。正確な二等辺三角形をしており、上から下まで粒が同じ大きさに揃い、黒く輝く実にはブルーム(果粉)と云うのだそうだが、うっすら白い粉が吹いている。
 食べるのがもったいないような気になるが、いつまでそうやってぶら下げているわけにもいかず、水道栓を開けてじゃーっと冷水を浴びせ、クリスタルの大皿に載せて、テーブルに据え、一粒取って皮をむき、口に含んだ。甘い果汁がじゅわっと広がり、寝ぼけ眼がぱっちり開いた。
 朝、日の出前に摘んだ葡萄は夜の間にたっぷりと含んだ水分と、溜め込んだ糖分によって、殊の外みずみずしくて美味いのだという。
 この句の作者はその逸品の摘み取ったばかりを、なんと現場で食べているのだ。そりゃ美味いだろうなと思う。甲斐の葡萄園はおおむね山裾の扇状地にあり、昼間はめっぽう暑いが朝夕は爽やかだ。秋の風に吹かれながら採りたての宝石のような葡萄を賞味する。淡々とした詠み方だが、至福の秋を心ゆくまで味わっている満足感が伝わって来る。
(水 22.09.11.)

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