鉄線と防犯カメラ葡萄園     高井 百子

鉄線と防犯カメラ葡萄園     高井 百子

『この一句』

 葡萄や桃などの果実の盗難被害が全国で相次いでいる。丹精して育て、やっと収穫という直前のタイミングでごっそり持って行かれるという。果物も野菜も収穫までに農家は多大な労力をかけている。例えば葡萄の場合、余分な房を間引く「摘房」、粒を間引く「摘粒」、病害虫から保護する「袋かけ」などなど、実に多くの手間と時間がかかっている。盗まれた農家のダメージ、落胆ぶりは想像を絶する。
 近年特に目立つようになった果物盗の背景には、高級ブランド化による商品価値の高騰があるという。一房一万円もするようなシャインマスカットを盗み、ネットや路上で売り捌く輩。仲間内で分け合って食べたという外国人、など犯人像はさまざまだ。先日、盗難を防ぐため山梨市の葡萄畑で、特殊カメラを載せたドローンを上空に飛ばして、パトロールする訓練が行われた、とNHKのニュースが報じていたが、全国の果樹農家は収穫時期になると防犯に頭を悩ませている。
 掲句の作者は、長野県上田に居を構え、ほぼ毎日、豊かな自然の中を散歩している。この時期、シャインマスカットや巨峰などの葡萄棚も身近に見ているようで、鋭い観察眼が生きた句だ。健康のため、散歩に付き合っているという夫のてる夫さんによると、「有刺鉄線には電気を通していて、通路側にはネットが張ってある」そうだ。
(双 22.09.07.)

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