いつの間に旅立つ齢夜の秋 田村 豊生
『季のことば』
「夜の秋」は晩夏の季語である。夏も終わろうとする夜半、ふと生まれる「もう秋なのだなぁ」という感慨を生み出す季語、と言っていいだろう。人生や自然など、さまざまな事象の中に存在する「いかにも秋」という感慨を、句の詠み手の心に生み出させる機能を持っているらしい。これがお馴染みの秋の季語、「秋の夜」と大いに異なる面だと思う。
季語「夜の秋」の持つこのような機能が、掲句の作者の心に一つの作用をもたらしてしまったようだ。句会報中の、掲句へのコメントが並ぶ中に作者の「自句自解」もあり、以下のように記されていた。「小生間もなく卒寿。昭和八年生まれ。充分楽しませていただいた。感謝の内に永の旅路へ、支度よし」。ぎょっとせざるを得ない先輩の言葉であった。
作者は長らく仏教を学んでいて、著名寺院での修行も体験されている。人生に対する心構えも、我々凡人とは異なる面があり、その真摯さとまともに相対して、たじろいだこともあった。自句自解の最後に、癌の戦いの末に「ごめんね」と言って、先に逝かれた奥様への感謝の言葉もあり、参ってしまった。俳句でこんな気持ちにさせられようとは!!
(恂 22.08.29.)
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