飛行機の音も飲み込む雲の峰   後藤 尚弘

飛行機の音も飲み込む雲の峰   後藤 尚弘

『合評会から』(三四郎句会)

賢一 入道雲が飛行機の爆音を飲み込んでしまう。なるほど、そういうこともあるのかな。
而云 航空機が雲の峰に入り、爆音が途絶えたのだろうか。
有弘 爆音によって巨大な入道雲の存在感を表していると思う。
尚弘(作者) もくもく立ち上がる入道雲に航空機の爆音が飲み込まれて行く、と感じた。目に見えない音も飲み込まれてしまう。その雄大さを表したかった。
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 句を見て「?」と思った。空を見上げ、航空機が雲の中に入って行く――。少年の頃から何度も見ている光景だが、その際、爆音も雲に飲み込まれると気づいたことはなかった。作者は「爆音も飲み込まれて行くのを感じた」と言う。事典によれば、雲は水滴や氷の粒の集合体である。入道雲の重量感からすれば、爆音も吸い込んでしまうかも知れない。
 それが真実かどうかを確かめるのは、なかなか難しそうだ。今後の人生の中で、飛行機が雲の中に入るのを見る機会は何度あるのか。その時に爆音が消えるかどうかを確かめる余裕があるのか・・・。やがて、作者が「消えたと感じた」ならば、それでいい、という結論に至った。俳句は元もと「そのように感じればいい」という文芸なのだから。
(恂 22.08.26.)

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