あの人をいい人にして蝉時雨   杉山 三薬

あの人をいい人にして蝉時雨   杉山 三薬

『この一句』

 「あの人」とは誰のことだろう。手がかりは「蝉時雨」にありそうだ。山本健吉によると「多くの蝉がいっせいに鳴き出すと、沛然と驟雨が到ったような感じがするので、蝉時雨と言っている」だそうだ。「鳴く」は「泣く」にも通じるためか、蝉時雨には何となく物悲しい気分も潜んでいる気がする。となると「あの人」は亡くなった人ではないか。
 生前は何かと苦労させられた夫に先立たれた妻が、『とはいえ、居なくなってしまえば寂しい、葬儀に来てくれた人は口をそろえて「いい人だったのに、残念ですね」と言ってくれたし』などと述懐しているのだろうか。
 しかし、改めてよく読んでみて、待てよこれは安倍元首相のことかな?と思い到った。「もりかけ」やら「さくら」やら何も説明しないまま有耶無耶にして、再登壇の可能性も、などと取り沙汰されていた「あの人」が、手製の銃で撃たれ亡くなった途端、「いい人」の賞賛の嵐。まさに蝉時雨のようだ、と詠んだのだろうか。だとしたら、割と賞味期限の短い時事句になりそうだが、短絡的にそうと決めつけるのは早計かもしれない。最初に感じた「長年連れ添ったあの人」ととる方が、自然ではないか。
 そんな思考の中、作者は時事句が得意な三薬さんと判明。やはり事件を扱った句とわかったが、ほのめかすだけで声高に表現しなかった分、解釈が広がり普遍性が出たのではないだろうか。
(双 22.08.02.)

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