阿弗利加のタコに慣れたる半夏生  工藤 静舟

阿弗利加のタコに慣れたる半夏生  工藤 静舟

『季のことば』

 「半夏生(はんげしょう)」とは暦の七十二候の一つで、現在のカレンダーでは7月1日か2日。サトイモ科のハンゲという植物(カラスビシャクとも言う)が芽生える頃なのでこう言った。稲作が何より大事だった昔の日本では、この日までに田植えを済ませないとよく実らないと言われ、農家は一家総出で懸命に頑張った。そしてこの日からちょっとした「休暇」に入る。農作業を休み、餅をついたり赤飯焚いたり、煮しめを作ったりしてちょっとした宴を持ったりした。
 いわゆる「物忌」で、家に籠もり余計なことをせず、斎戒沐浴、神仏に無事を祈るわけだ。そういう“禁忌”の日を設けたのは、働き者の多い農村地帯で「村中一斉休暇」を取るため自然に生まれた智慧なのであろう。すぐにまた田草取り、畑の雑草取りなど過酷な作業が待っている。ここで一息入れておくことがとても重要なのだ。
 中国から伝わった二十四節気とそれを細分化した七十二候は日本でも重きをなして明治時代まで用いられたが、それと並んで特に日本人の暮らしに重要な季節の替わり目を示す日を九つ選び出して「雑節」として暦に載せた。節分、彼岸、社日、八十八夜、入梅、半夏生である。ここからも「半夏生」が大切に扱われていたことがわかる。
 半夏生で特に持て囃されるのがタコである。ことに関西地方では今でも半夏生というとタコの売上が激増する。なぜ半夏生にタコなのか。八本の足で吸い付くように、植えたばかりの早苗がしっかり根付きますようにと神棚や仏前にタコを供え、その御下がりを食べる風習からという説があるが、はっきりしない。今でも相変わらず日本人はタコ大好きで、世界一のタコ食い民族。とても国内産では足りず、大半はアフリカのモロッコとモーリタニアからの輸入品だ。 (水 22.08.01.)

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