大楠の木陰の広さ梅雨明ける 中村 迷哲
『季のことば』
日本における巨木と言えばまずクスノキ(楠)を挙げなければならない。天然記念物級になると高さが二十㍍、幹回りも二十㍍以上、こんもりと広がる枝葉の差し渡しは四十㍍以上になるものもあるという。まさに大樹中の大樹というべき貫禄を備えており、真夏の日中、この木陰に来て一息ついたりすると。いつまでもそこから離れられなくなる。
掲句は本年、東京の梅雨明け間もなくの頃、句仲間十余人と東京・小石川植物園に出かけた時のもの。だれもが同植物園のあちこちに立つ楠の根方で一休みしたはずで、それぞれが今、あの広々とした木陰を思い出しているに違いない。その後に東京地方の天候は「再び梅雨入り」の様相を示しており、七月末にようやく“二度目の梅雨明け”を迎えたのだと思う。
もう七十年以上も前の私の小中学生時代のこと。その頃の梅雨明けはおおよそ、夏休みに入る七月の末と決まっていた。夏休みの初日、キャンプに出掛ける日の朝に長雨がぴたりと止み、梅雨明けだったこともあった。梅雨明けのあの晴れ晴れとした気分。それを今年は二度も味わえるとは・・・。植物園の楠の木陰に、もう一度、腰を下ろしたくなった。
(恂 22.07.28.)
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