土用鰻ぬるりと沈み籠の中    宇佐美 諭

土用鰻ぬるりと沈み籠の中    宇佐美 諭

『季のことば』

 土用丑の日が近づくとどこの鰻屋も一杯仕入れて生簀に入れている。弱ったのから順番に籠に入れて取り出しやすくしておく、なんて話を聞いたことがある。鰻の方も観念しているのか、あまり動かない。時々、ぬるりぬらりとぬたくっている。この句はそんな土用鰻の様子を詠んで、とても面白い。
 「土用」というのは古代中国の哲理陰陽五行説から出たものだ。万物は陰と陽の二気によって生じ、五行(五元素)の中の木と火は陽、金と水は陰に属し、土はその中間的性質を備える。五行の勢いの消長によって天地の気候、温暖から瑞祥災禍、人事の吉凶すべてが生まれるという。
 草木の芽吹く春は「木」、燃え盛る夏は「火」、静まる秋は「金」、冷気の冬は「水」、それらの気を集めてどっしりとした大地を成す「土」が中央に位置し、各季節の末期十八日間を支配するというのが陰陽五行説の四季循環の教え。つまり、「土用」はそれぞれの季節にあり、夏で言えば立秋の前十八日間がそれに当たる。各季節の絶頂期に当たる。中でも夏季の土用が最も印象深いので、いつの間にか「土用」と言えば七月二十日ころから八月六日か七日までの夏の土用を言うようになった。
 今日では「土用鰻」がすっかり定着しているが、これは江戸中期の博物学者で戯作者でもあった平賀源内が「土用丑の日うなぎの日」とした宣伝文句と言われている。その真偽はさておき、この宝暦・明和年間あたりに蒲焼が江戸っ子の間に夏負け防止には飛び切りのものとして定着したことは確かなようだ。
(水 22.07.25.)

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