水打つも消えぬお七の燃ゆる恋  流合 水澄

水打つも消えぬお七の燃ゆる恋  流合 水澄

『この一句』

 6月18日(土)に文京区の社寺や植物園をめぐる吟行を催した。梅雨空の下、19人が参加して白山神社の満開の紫陽花を眺め、広大な小石川植物園で樹木や草花に触れて句想を練った。掲句は神社近くにある圓乗寺に足を延ばし、八百屋お七の墓にお参りした折の感懐を詠みとめたもの。墓所の様子とせつない恋心を上手に詠み込んだ佳句であり、参加者から高点を集めた。
 八百屋お七は江戸時代、恋人に会いたい一心で放火の大罪を犯し、火あぶりの刑に処せられた。数え年16の少女だが、井原西鶴の「好色五人女」に書かれたのをはじめ、歌舞伎や浄瑠璃でよく知られている。圓乗寺はお七の家の菩提寺であり、天和の大火で避難してきたお七が寺小姓と恋仲になった場所。今はビルの谷間となった寺には、建立時期の違うお七の墓が三基並んでおり、参拝の人が絶えない。
 墓の前には水桶とひしゃくが置かれ、墓石は参拝客が掛けた水で黒く濡れている。お七の供養のほか、火伏祈願で水を掛ける人もいるようだ。掲句はその水を夏の季語である打水に重ね、お七の恋心はそれでも消せずに燃え盛ると詠じる。季語が巧みに使われ、お七の悲恋が胸に迫る。
 現役社員である作者が吟行に参加したのは数年ぶり。久しぶりに句友と一緒に歩き、語らい、句を詠んだ。打ち上げの蕎麦屋にも付き合ってくれたが、吟行の収穫は掲句にとどまらず大きかったのではなかろうか。
(迷 22.07.05.)

この記事へのコメント