ピースといふ薔薇のつぼみは固きまま 大澤水牛
『この一句』
5月の酔吟会の兼題に「薔薇」が出た。気候も良いので幹事の呼びかけで、5月5日に都電荒川線の沿線に薔薇の花をたずねる吟行に出かけた。ちょうどこの日は立夏。汗ばむほどの初夏の陽気となり、参加した12人は沿線の名所旧跡と薔薇園をめぐり、充実した一日を過ごした。
荒川線は軌道に沿って沿線住民が植えた薔薇が並び、終点の三ノ輪橋駅にはちょっとした薔薇園が設けられている。作者は庭いじりが好きで、植物にも造詣が深い。満開のバラの花を、愛おしむようにじっくりと鑑賞している姿が印象に残った。
薔薇はギリシャ、ローマや中国など古代から栽培されてきたが、ナポレオン時代のフランスで人工交雑手法が開発されてから、ヨーロッパを中心に様々な新種が生み出されてきた。このため名前も圧倒的に横文字が多い。三ノ輪橋の薔薇園でも「ダイアナプリンセス」や「クイーンエリザベス」、さらに「マリア・カラス」「イングリット・バーグマン」など有名女性を冠したものが目を引いた。
作者の自句解説によれば、掲句は三ノ輪橋から少し戻った町屋駅で見かけた薔薇を詠んだものという。開花時期をずらすためか、この駅の薔薇はまだつぼみのものが多かった。作者はその中に「ピース」という名の薔薇を見つけ、開戦から3ヵ月経っても和平の展望が全く見えないウクライナに思いを馳せたのであろう。薔薇の名を一つひとつ確かめた作者の観察眼と、80歳を超えてなお衰えないニュース感覚が生んだ佳句といえる。
(迷 22.06.14.)
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