新緑の庭に花嫁登場す 今泉 而云
『この一句』
一読して明治記念館での息子の結婚式を思い出した。神宮外苑にある同館は、緑豊かな森に包まれ、広い庭での写真撮影が売り物の一つだ。結婚式を終えた新郎新婦は、招待客が待つ芝生の庭に登場する。初夏の頃は周囲の木々や植栽の緑に、花嫁のウエディングドレスや打掛が映え、まるで花が咲いたようだ。掲句はそんな結婚式の一場面を鮮やかに切り取ったもの。「登場す」の措辞が実に効果的で、待ち構える客とそこに現れた花嫁の姿が、新緑の中に鮮やかに立ち上がってくる。
爽やかな晴れ間が続く新緑の頃は、結婚式のベストシーズンでもある。結婚情報誌の調査によると、月別では秋の10月、11月が最も多く、5月、4月がそれに続く。ジューンブライドの6月は6番目と中位で、やはり好天の多い月の人気が高いようだ。新緑はこれから木々が葉を茂らせ、伸びて行く時期である。若い二人の出発にふさわしい季節ともいえる。
句会で名乗り出た作者によれば、何と明治記念館で親戚の結婚式に参列した時の印象を詠んだという。同じ場面を見て詠んだ句と聞き、嬉しくなった。少子化で結婚する若者が減っているのに加え、近年のコロナ禍で式場はどこも苦戦が続いている。参加人数を絞ったり、ノンアルコール飲料にするなどコロナ対応の挙式に知恵を絞っているそうだ。神宮の森は今年も変わらずに新緑に輝いている。苦境に負けずに旅立つ二人を優しく見守っているに違いない。
(迷 22.06.05.)
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