三月やインクの色を替へてみる 横井 定利
『この一句』
三月は、ようやく春を実感する月。雛祭に始まって彼岸を迎えると、やがて桜の便りが聞こえてくる。卒業式や転勤、入学準備、引っ越など身辺も何かと慌ただしくなってきそうだ。掲句はそんな期待と不安の綯い交ぜになった心情と、春本番のウキウキした気分を「インクの色を替えてみる」行為で表現した、とても感じの良い一句だ。確かに万年筆のインクを別の色に替えるのは、気分転換にぴったりだ。
筆者はかつて、太字の万年筆で原稿用のマス目を埋める、というスタイルに憧れて太字の万年筆を使っていた。太字ゆえなのかインク漏れがあって、使うと指が汚れた。やがてワープロ全盛になり、万年筆の出番は少なくなってお蔵入り。あるとき、万年筆の手入れの仕方という記事を見て、抽斗から出して試してみた。ペン先を水に浸け2、3日、水が透明になるまで水を取り替える、しっかり乾かして新たなインクを入れる、という方法だった。確かにインク漏れがなくなり、描き味も蘇った。
万年筆のインクを替える場合、薄い色から濃い色に替えるのは問題ないが、逆はペン先をよく洗う必要があり、結構手間がかかりそうだ。あるいは、付けペンなのだろうか。その方が手軽でおしゃれかもしれない。ともあれ、この句には何人もの句友が共感の手を挙げた。
(双 22.03.29.)
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