剪定にアップテンポのリズムあり 塩田命水
『この一句』
庭木は剪定しないと野放図に伸びて、収拾がつかなくなってしまう。見た目が悪くなるだけではない。枝が重なって葉が密集し風通しが悪くなると、病虫害が発生する。とりわけ花の木や果樹は剪定作業が必須である。
しかし、樹木によって剪定の時期がある。常緑樹のマサキ、つげ、ひばなどの生垣なら、いつでも刈り込むことができるが、花木の場合は花芽が育つ時期に枝を切り込んでしまうと、翌年、開花期が来ても咲かなくなってしまう。この剪定時期を見定めて手入れをするのが、植木屋や園芸家の腕の見せどころとなる。俳句では花木や果樹の花芽ができる前の初春・仲春に合わせ、「剪定」を春の季語にしている。
熟練の植木屋の剪定作業は半開きにした窓越しに聞いていても心地よい。最初は乱れた枝を切り落とすなど、間を置いたゆっくりとした感じで始まり、やがてチョキチョキと並足のリズム、そして仕上げはシャカシャカと軽快な音を響かせる。
あたかもニューオーリーンズ・ジャズを聞いているようだ。最初は亡き人の棺を墓地に運ぶ葬送行進曲であり、ゆっくりした荘重な調べとリズムのブルース。そして、埋葬後の帰途は「ああ友は晴れて天国に行ったのだ」と、打って変わった軽快なアップテンポの「聖者の行進」になる。
「剪定」というものを鮮やかに、軽快に詠んだ。カタカナ言葉が効いている。
(水 22.03.22.)
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