梅の香をマスクずらしてそっと嗅ぐ 山口斗詩子

梅の香をマスクずらしてそっと嗅ぐ 山口斗詩子

『合評会から』(番町喜楽会)

二堂 この句は科学的に言うとおかしい(笑)。マスクなんかスース―だから、外さなくても梅の香はちゃんと嗅げる。でも、マスクを外したらもっといい香りが嗅げるだろう、ということで句になったのでしょう。
愉里 最近はずっとマスクをしているので、思わずマスクを外したくなる時があります。そんな瞬間を詠んだ句でしょうか。
水馬 皆さんとは逆で、梅の香はあまり強い香りではないので、マスクを外さないと嗅げないように思える。この人は、まわりに人がいないのを見計らってマスクを外したのでしょう。
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 「梅が香」は万葉時代から歌材にされてきた。身の引き締まる寒気を縫ってほのかに漂って来る梅の香りは、凍てつく心をほぐしてくれるようだ。「探梅」という冬の季語がある。早咲きの梅をたずね寒中に厚着して梅見することを云うのだが、これも梅に香気があればこそである。「夜の梅」という歌語もある。暗闇で見えない梅の花を「香り」で探すという粋な振舞いである。浮世絵師鈴木春信の代表作にもなっている。闇夜の渡り廊下を歩いている振袖の乙女が良い香りに振り返り、手燭をかざすと白梅が浮き上がったという図である。
 二堂さんの言うように、梅が香はマスク越しにも気づくかもしれないが、やはりマスクをはずしたくなるのが人情というものだろう。
(水 22.02.18.)

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