冬の蝶ビルの植込み避難場所   久保 道子

冬の蝶ビルの植込み避難場所   久保 道子

『この一句』

 冬の蝶の居場所と言えば、昔は里山の南斜面のクヌギやコナラの落葉が降り積もったくぼみや、住宅の庭の石灯籠の裾の庭木の陰などだった。今や里山は切り崩され、町は道路が舗装され、土が無くなってしまった。住宅街は細分化されて石灯籠や蹲居(つくばい)を据える庭も無い。都会には虫の這い出る隙間も無くなってしまったのである。
 ところがどっこい、冬蝶は都心にも生きながらえていた。ビルとビルに挟まれた小さな公園や植え込みを栖にするようになったのだ。
 日本の経済活動の中心である千代田区大手町。第二次大戦後の廃墟から立ち上がって、真っ先に整備された地区だが、バブル絶頂期から崩壊に至る2000年から2010年頃、ビルの寿命や使い勝手の悪さが目立って来て、次々に建て替えられるようになった。それが令和の昨今、一わたり済んで、世界にもまれに見る美しい都心に生まれ変わった。30階、40階という、地震国にはあるまじき高層ビルを作り栄華を競う。そうした高層建築の建蔽率とか用地率とかによるものだろう、ビルの周囲にはかなりの空地が作られ、それが貴重な緑地を生む。限られた窮屈な空地だが、れっきとした「大地」であり、かなり大きな木も茂らせることが出来る。都心散歩をしていると、なるほどなあ、こんなふうにして人工林が出来るんだなあと感心する。
 植え付ける木々の根方には虫の卵が巣食っている。それらが孵って、都心生まれの昆虫が育つ。厳冬でも周囲のビルの保温によって、虫たちが生き延びられる環境が出来ているのだろうか。もしかすると新種の蝶が現れるかも知れない。(水 22.01.11.)

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