気嵐や立山遠く朝焼ける 岩田 三代
『季のことば』
異常気象や温暖化で全国区になる気象用語がある。「気嵐(けあらし)」などは北海道や東北の気象現象だと思っていたら、ずいぶんと南下して近畿地方にまで見られるようになった。気嵐とは正式には蒸気霧と呼ぶ冬場の気象用語。冷え込みの激しい朝、海面や川面に昇る霧が湯気のように見える現象で、発生には条件がある。夜の気温が放射冷却によって冷やされ、翌朝の天気が快晴ならそうなるとネットの説明にある。北海道育ちの筆者などには見慣れた自然現象だが、それが京都府や兵庫県の日本海側にも起こっている様相をニュース映像で見ると、ここでも日本の気象におかしな変化が起こっていると思わざるを得ない。
気嵐。角川の古い歳時記には載っていない新季語である。季語も世につれ変わりゆくものだから、採用する歳時記もおいおい増えて来るのだろう。筆者はこの気嵐の光景こそ見なかったが、富山の雨晴らし海岸から立山連峰を見たことを思い浮かべた。海の向こうに三千メートル級の山がそびえる光景は世界でも珍しいという。気嵐が立って海を隔てた立山が霞んで見えるのか、いや見えない。作者は気嵐の何十キロ先にはたぶん立山があるはずと心の目で見ているのだと解釈した。「立山遠く」の措辞が見たいけれど見えないもどかしさを表しているようだ。朝焼けのなか、筆者の大自然を讃える表現がいい。ゴルフ旅行をした際に見た実景から出来た句だと言うが、よいお土産をもらったものだ。
(葉 21.12.27.)
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