焼芋や女系家族のケセラセラ 向井 ゆり
『この一句』
「焼芋」と「女系家族」と「ケセラセラ」が、まるで三題噺のように並ぶ。
まず「焼芋」。大阪人は女性の好物を「芋たこなんきん」などと呼ぶ。「芋栗なんきん」というバージョンもある。田辺聖子さんの本のタイトルは「芋たこ長電話」である。いずれの場合も「芋」は外せない。
次に「女系家族」。山崎豊子さんの小説かテレビドラマでしかお目にかからない言葉だが、女性の好物とされる「焼芋」とこの古典的な言葉を並べると何とも言えぬ可笑しさが滲み出す。
そして極め付きは「ケセラセラ」。ヒッチコック監督の「知りすぎていた男」で、主演のドリス・デイが歌った挿入歌のタイトルである。こんな言葉を下五に見つけてきた作者の発想の豊かさに感心してしまう。「ケセラセラ」は歌詞の中で「なるようになるわ」と訳されている。「これを食べたらカロリーオーバーかしら?」「いいわよ、なるようになるわよ」そんな声が聞こえてきそうだ。
いずれにせよ、母、娘、孫娘そろって、おしゃべりしながら湯気の立つ焼芋を頬張る姿が目に浮かぶ。愉快で美味そうな句である。
(可 21.12.26.)
この記事へのコメント