仁丹が香る亡父の冬背広 中沢 豆乳
『合評会から』(日経俳句会)
青水 仁丹への郷愁が決め手になっています。下五に背広という古めかしい、懐かしい言葉を持ってきて、今は亡き父を想う。道具をそろえた良い俳句です。
雅史 父の四十九日を終えたばかりだったので、鋭く刺さりました。
水馬 私の父もタバコと仁丹が匂っていました。昭和の親父のイメージです。
方円 昔はポケットに仁丹を忍ばせていました。
明古 仁丹が「ある時代」を呼び起こします。
定利 仁丹で採りました。
* * *
私の亡父も仁丹が好きだったし、私自身も常に仁丹をポケットに入れていた。満員電車に乗ると、どこからともなく仁丹の匂いが漂ってきて、人いきれの中の清涼剤になった。合評会でこもごも語られているのは、いずれもそうしたノスタルジーである。仁丹は「昭和の匂い」なのだということを、この句で改めて感じた。
作者は「ハイライトと仁丹の匂う父でした。思い出にある父の残り香を想起して、それを句にしました」と言う。自分ももう老境に一歩踏み込んだ。身辺整理とやらにもかからねばならぬ。捨てなければならない亡父の古背広なのだが・・との感慨がしみじみ漂う。
(水 21.12.24.)
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