再会のマスターの笑み冬ぬくし 廣田 可升
『合評会から』(酔吟会)
ゆり コロナが明けて、久し振りにみんなでお店に行くという経験を最近しました。お店の人も喜んでくれました。
春陽子 「籠り明け手締め高々一の酉」もありましたが、どちらもコロナ明けの明るさの出ているいい句だと思います。
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私も句会でこの句を選んだ。飲食店はどこもこの二年近く、辛酸を舐める苦労をしてきた。チェーン展開をしている大手は資力があるから、ある程度の損失は覚悟の上でおカミの言うことを聞いて営業自粛し、補償金をもらって“冬眠”した。店主一人でやっているような場末のバーや一杯飲み屋は、さっさと閉店して休業補償金一日10万円だかをもらって、逆に“コロナ太り”になったところもある。辛いのは中規模の、なまじっか常連客がそこそこ付いている老舗の飲食店。それなりの店構えで家賃や維持費がかかる、従業員をおいそれとクビには出来ない。休業補償金ではとてもやっていけないのだ。
歯を食いしばって、開店できない店に出かけては掃除などして、耐え忍んできた。それがようやく開店できるようになって、お馴染みさんが駆けつけてきた。「再会のマスターの笑み」が「冬ぬくし」の季語にぴったり合う。
先日久し振りに九段下の蕎麦屋丸屋に行ったら、あの丸々とした女将さんが本当に嬉しそうに「久し振り」と喜んでくれた。この句を見てすぐにあの光景が浮かんだ。 (水 21.12.19.)
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