三越の獅子の冷たき師走かな    嵐田 双歩

三越の獅子の冷たき師走かな    嵐田 双歩

『この一句』

 三越デパートのシンボル・ライオン像を、作者はいつか詠みたいと思っていたそうだ。
 作者が温めて来た句材が結実した一句だ。ライオン像はロンドンのトラファルガー広場にある像を模したものだというのは周知のこと。東京・日本橋本店の正面玄関には、衛兵よろしく左右二体が威を払って並んでいる。地方の三越では一体だけのところもあるそうだがそれはそれ。デパートの客寄せの役目もあるから、季節ごとに浴衣やサンタクロースの衣装を着せられてしまう青銅の像である。コロナ禍の中ではマスク姿を見た。百獣の王でありながらどこか愛嬌がある。大正期の支配人のライオン好きが高じた末に生まれたというが、ライバル店との違いを際立たせるマスコットとして世々活躍続けるだろう。
 季節は「師走」である。春でも秋でもこの句は詠めないとみた。触ってみて生温かだったとかは、金属製ゆえにそうは言えまい。真夏に日が当たって熱いほど温度があがるかどうかは予想の限りではないが…。やはり寒さがつのり、空っ風が吹く十二月、それもことに年末がふさわしい。ひんやり冷たい金属特有の蝕感が読み手の掌にわきおこる。二月の極寒には掌が金属に吸い付いてしまうような感覚があるが、十二月は頃合いの冷たさだろう。「三越の獅子」という荘重な措辞とあいまって、師走商戦の喧騒のなか一瞬の静寂を感じる句だ。(葉) 

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