蝶決心して冬至の青空へ     金田 青水

蝶決心して冬至の青空へ     金田 青水

『この一句』

 俳句はリズムだ、と言い切って、韻律を大事にした藤田湘子に「口笛ひゆうとゴッホ死にたるは夏か」という破調の作品がある。575を大きく外れ、783の18音だ。自句自解によると、「突然、口をついて出てきたもの。それを文字に書いたらこういう破調になった。(中略)定型に改作したら、あの日、あの時、あそこで、感じたことが消えてしまう」という。確かに口に出して読むと、不思議とリズム良く読み下せ破調を感じさせない。
 掲句は「冬の蝶」の兼題で出された一句。17音でまとまっているものの845の破調だ。作者がどうしてこのような詠み方をする境地になったのかは不明だが、出だしの破調によって、冬の蝶の切迫感が伝わってくる。寒さに耐え、じっとしていた蝶が一大決心をして青空へ舞い上がった、と作者には見えたのだろう。仮に「冬の蝶決心をして青空へ」と無理に575に直すと、蝶の切羽詰まった感じが削がれる。
 句会では有季定型の投句がほとんどなので、たまに掲句のような破調に出会うと新鮮に映る。しかし、破調句は「自分のおもいが無意識にあふれ出て言葉になるものなので、意識して作れるものではない」(藤田湘子)ようだ。
(双 21.12.13.)

この記事へのコメント

  • 金田青水

    兼題冬の蝶を念頭に、早朝の海岸を歩いていたら、頭の中で突然、蝶が南へ向けて飛び立ちました。ので。そのままのイメージを俳句にしました。当初案は師走の空でしたが、一陽来復の意を込めて、敢えていささか臭い冬至といたしました。
    2021年12月13日 10:26
  • 酒呑洞

    これは青水さんの代表句の一つになりますね。「蝶決心して」が素晴らしいです。蝶の決心といい、冬至の空といい、全てが作者の「決めつけ」なんだけど、それが読む側に素直に伝わって来ます。感心しました。
    2021年12月13日 12:53