手に馴染み太りし手帳年惜しむ 塩田 命水
『この一句』
一読して「太りし手帳」の表現の卓抜さにうなってしまった。師走に入り手帳を手にする。一年近く使い続けたので角が丸まり、手に馴染む。書き込んだ文字だけでなく、所々にメモや資料が挟み込んである。分厚くなった手帳はこの一年の歴史であり、眺めていると様々な出来事や思い出が浮かんでくるに違いない。年惜しむの季語を具現化したような句だ。
作者の解説によれば、毎年決まった手帳を使っており、ぴったり納まるサイズの箱に仕舞っているという。年初にはきちんと入った手帳が、新聞の切り抜きも含めいろんな資料を貼り付けるので、年末には膨らんで納まらなくなる。太った手帳を毎年実感している作者だから生まれた句であり、そんな手帳を愛おしむ気持ちも感じられる。
手帳は書店・文具店で市販しているもののほか、企業が社員や取引先に配るもの、税務手帳など専門家向け、都道府県が出す県民手帳など様々ある。最近はスマホの電子手帳機能を使って、紙の手帳は持たない人が増えていると聞く。それでも手帳派にとって、予定や行動を書き込むことは自分の歴史を記す第一歩とも感じられ、手放せない。
掲句は番町喜楽会の12月例会で今年最高の10点を得た。年初から年末まで新型コロナに翻弄された令和三年。振り返ればそれぞれに去来するものがあろう。一年を締めくくるにふさわしい、まさに掉尾の一句といえる。
(迷 21.12.07.)
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