ふるさとの空き家を泣かす虎落笛 工藤 静舟
『季のことば』
虎落笛と書いて今時の若者に見せて、「もがりぶえ」とちゃんと読めるのが百人中何人いるだろう。かなり年のいった人でも、その意味するところを正しく答えられる人はそれほど多くないだろう。しかし、歳時記の冬の部には「強い冬の風が柵や竹垣などに吹きつけ発する笛のような音」とちゃんと載っている。
「こんな古臭い言葉をもてあそんでいるから、俳句なんて時代遅れの老人の遊び事と言われるんだ」と笑われるかもしれない。しかし近頃、俳句は若年層の愛好家が着実に増えている。そんなこともあって、あえて句会の兼題として出した。「嫌がらせの年齢」が意地悪で出した兼題ではない。
この句は虎落笛の持つ雰囲気を素直に詠んでいる。家屋は生き物で、人が住まなくなると急速に傷み始める。住んでいれば羽目板の割れ目、瓦のズレなど、小さなほころびに気がついて修復するからいつまでもしっかりしているのだが、無人の住居はそうした傷に気づかず、そこから雨水が浸み込んだり、強風が割れ目を広げたりする。そして見る見るうちに廃屋と化す。
故郷を離れて都会住まいが長くなり、故郷に残した両親も亡くなって、無住の家だけが残っているという、この句のような情景は珍しくなくなった。名義上の持主である都会住民は、祖父母や両親と共に住んだ家だから愛着がある。何とかしようとは思っているのだが、思うに任せない。破れた羽目板を吹き鳴らす虎落笛のボリュームは年追うごとに高まっていく。
(水 21.12.06.)
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