住み古りて茸はえたる庭の隅   星川 水兎

住み古りて茸はえたる庭の隅   星川 水兎

『合評会から』(日経俳句会)

青水 ありのままを淡々と過不足なく詠んでいる。平凡に見えるが吟味した措辞がいい。
昌魚 我が家も築八十年の古くガタのきた木造あばら家なので、なんとなく納得です。
十三妹 マンション住まいには却って「いと風流」感。庭に茸なんていいなあ、羨ましいです。
双歩 なんだか訳のわからない茸が生えていることがありますよね。作者の実家のことですかね。
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 作者の住まいもマンション。それを知っている双歩さんは「実家のこと」と読み取った。しかし、作者の種明かしによると、マンションのベランダの鉢に茸が生えたのだそうだ。そこから実家の古寂びた庭へと思いが飛んだのだろう。
 ところが私はどうしたわけか、この句をぱっと見た時に「家の隅」と読んでしまい、「古家で雨漏りがひどいのか、それにしても物凄いなあ」と、何とも言えない凄絶な感じを受けた。『雨月物語』や『怪談』に出てくるような、屋根の壊れた隙間から月光が射したり、畳が腐り床が抜けて・・といった情景が浮かんだ。
 とんでもない読み間違いで作者には失礼したが、もちろん「庭の隅」でも結構な句だと思う。都内だって谷中や上野、千住、亀戸あたりにはこうした古屋敷がまだまだひっそり残っている。郊外ともなれば空家が激増している。庭中茸だらけの家がどんどん増えて来る。
(水 21.11.28.)

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