ゴルフ終え鮭とばかじる列車かな 旙山 芳之
『季のことば』
「鮭とば」は歳時記には載っていない。北海道や東北で、河口に押し寄せた鮭を取ったものを三枚に下ろし、皮付きのまま縦に棒状に切って紐のようにしたものを海水に浸けて寒風に晒す。すると紅色に透き通るきれいな鮭のスティックが出来る。もともとはアイヌの保存食用に作られたもののようだが、今では北海道はもとより東北各地から関東まで広まって酒のつまみとして人気が高い。大手スーパーやコンビニ、駅の売店では、ビーフジャーキーやサラミソーセージなどと並んで「つまみの定番」になっている。
というわけで、一年中ある「鮭とば」には季感が乏しく、季語として認められるかどうか、首を傾げるところがある。しかし一方で昔から、「乾鮭(からざけ)」という鮭の干物がある。大きな鮭のエラや内蔵を抜いたものを塩水に漬け、それを軒端にぶら下げてからからになるまで干したものである。これは江戸時代から北海道、東北、関東の、冬場の貴重なタンパク源として珍重された。芭蕉には「雪の朝独り干鮭(からざけ)を噛得タリ」という句があり、子規は「乾鮭の切口赤き厨かな」と詠んでいる。台所に吊るしておき、必要な分だけ切り取って炙って食べたり、酒浸しにしたり、汁に入れたりした。「鮭とば」も、この乾鮭の一種であることに違いはないから、冬の季語として取り上げても良いということになる。
晩秋初冬のサラリーマン・ゴルフ。帰りの電車の座席をくるりと回して四人のボックス席にしてくつろぐ。「おう、今年の鮭とばだな」「それにしても、あのチップインバーディにはやられたな」などと、コロナ明けの楽しげな情景が浮かぶ愉快な句である。
(水 21.11.23.)
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