二センチのサーモンステーキ旅の夜                 髙橋ヺブラダ

二センチのサーモンステーキ旅の夜 髙橋ヺブラダ

『季のことば』

 「鮭」は秋の季語である。母川回帰の習性を持つ鮭が、太平洋を経巡って大きくなり、産卵のために日本各地の河川に戻るのが秋10月頃になるからである。これは秋鮭とも呼ばれるシロザケで、生鮭として流通する。同じ鮭でも塩鮭や新巻、乾燥して冬の常備食とした乾鮭(からざけ)は冬の季語になる。
 一方、西洋料理のサーモンステーキに用いられるのはキングサーモンと呼ばれる1.5mにもなる巨大な鮭。北海道沿岸でも時々捕れ、マスノスケという。この句の作者はサーモンステーキをどこで食べたのか。北海道か。もしかしたら、北米やカナダの太平洋岸を旅行して味わったのではなかろうか。「二センチ」とわざわざ述べていることからすれば、厚さといい大きさといい、かなりびっくりさせられたということなのであろう。日本の「鮭の切身」を見慣れた身には、向こうのレストランで出されるサーモンステーキの大きさには度肝を抜かれる。
 もう半世紀以上も前のことになるが、ボーイング社からジャンボジェットが出来上がったから初飛行に招待すると言われ、シアトルの工場に出かけた時の晩餐会で出されたサーモンステーキは二センチどころか二インチ(5センチ)くらいありそうで、半分食べるのがようやっとだった。日本人旅行者に馴れた今では、向こうのレストランも日本人は少食だからと少々薄手にしてくれたのかも知れない。しかし、二センチでも、輪切りのキングサーモンは野球グローブが出てきたかと思うだろう。長時間かけてこれを平らげる作者は、「旅の夜」をしみじみと味わったに違いない。
(水 21.11.10.)

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