行く秋の小名木水門元番所 田中 白山
『この一句』
深川吟行の句である。小名木川は旧中川と隅田川をつなぐ五キロにわたる川で、江戸時代に掘られた運河である。「小名木水門」はその小名木川と隅田川が合流する萬年橋近くに設けられた、水位調節のための水門であるが、正式には「新小名木川水門」という。この句では「新」も「川」も省かれ、七音の「小名木水門」と省略されている。もともと旧中川側に「小名木川水門」があった為に、それと区別する為に「新」が付されたものである。一方の「元番所」は、萬年橋近くにかつてあった「川番所」のこと。小名木川を通行する船を取締り、積荷を管理するためのものであったが、こちらの方は旧中川側に「中川船番所」が設けられたために廃され、「元番所」と呼ばれるようになった。双方とも小名木川の水運に関連する施設ではあるが、時代背景も含め直接つながりのあるものではない。
この句の良さはなによりも、「新小名木川水門」を「小名木水門」と七音にまとめ、萬年橋を挟んで近接する「元番所」と一体化して、「小名木水門元番所」と言い切った歯切れの良さにある。これに取合せた「行く秋」の季語もなかなか良い。吟行の行われたのがまさに「行く秋」の季節であっただけでなく、「行く秋」の「行く」が上り下りの船の往来を想起させ、更には、江戸の昔から今への、時の流れも感じさせてくれる。
(可 21.10.19.)
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