この頃はあれこれ語る勝相撲 植村 方円
『季のことば』
俳句では「相撲」は秋だが、今では年間6場所も開催され、「相撲」には季節感など感じられないという人が多い。しかし9月半ば、まだ汗ばむ日はあるものの隅田の川風が涼味をもたらす両国国技館の秋場所は、いかにも大相撲にふさわしい季節感をまとっている。
さて、この句だが、よほど相撲好きでないと分かり難いかも知れない。「勝相撲」とは相撲言葉で勝った力士を言う。ことに勝てそうもない相手を倒した勝者を言う。その力士が近頃はよく喋るというのだが、そう言われてもよく解らない。
平幕力士が横綱を破ると「金星」と言われ、金星一個につき月給が四万円プラスされ、それは引退するまで続く。同じ前頭でも金星のある力士とそうでない力士の給与には大差がつく。そのせいもあって横綱挑戦の機会が巡ってきた平幕力士は渾身の力を振るう。「大物喰い」と言われた安芸乃島(現高田川親方)が金星獲得記録保持者で十六個。しかし安芸乃島は「勝ってぺらぺら喋るのは相手に失礼」と、勝利インタビューでは何を聞かれても「はい」と「いいえ」しか言わず、アナウンサー泣かせと言われた。それほどではないものの、昔の力士は口が重かった。
ところが近頃のお相撲さんはほんとによく喋る。勝負の様子を自分から解説してくれる力士さえいる。それが良いか悪いか一概には言えないが、時代が変わったことは確かだ。この句は相撲の句としては珍しく、面白いことを詠んで時代相を表したなと感心した。
(水 21.09.26.)
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