窯場にも風の抜け道秋来る 中村 迷哲
『この一句』
陶芸家が窯を築く時は、風の通り道を計算する。変に熱が籠ったり煙が溜まったりすると、仕事に差し支えるからだ。ということを前提としてこの句を読めば、作者は唐津か美濃かはともかく、どこかの窯場を訪問し、「あぁ、いい風が吹いている。秋が来たんだなぁ」と、あたりを見回しながら感慨にふけったことを物語っている。
と書いて来て、ふと気付いた。最近では町の真ん中、東京・銀座などにも陶芸教室がある。そこにも窯があると思われる。もとより登り窯や穴窯のように薪を焚くのは無理。黒い煙がモクモクとなれば、公害防止条例に引っ掛かるし、消防車が素っ飛んで来るような事態も。というわけで、都市の陶芸の窯は電気かガスを燃料としている。
陶芸には「一に火、二土、三に技」なる言葉がある。火の加減で釉薬の溶け方が変わり、それによって色の調子が変わり、釉が陶器の表面を走ったり、罅割れたりする面白さを尊重してのことだ。いわば偶然の産物である。一方、電気やガスを使う窯には色合いを調整しやすいという利点がある。いずれにせよ心地よい秋の風に吹かれたい。
(光 21.09.02.)
この記事へのコメント