尾根わたる風に額の汗さらす   廣田 可升

尾根わたる風に額の汗さらす   廣田 可升

『合評会から』(酔吟会)

鷹洋 尾根伝いで額に流れる汗をそよ風がもってゆく。山男の醍醐味をうたっており、実感が伝わりました。
ゆり 気持ちのよさそうな汗のかきかたをしているこの句を頂きます。私は山歩きはしないのですが。
水兎 気持ちの良さそうな情景が浮かんできました。汗をかいてこその、涼しさですね。
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 山登りをすると、真ん中辺りまで登ったところで、いつも「なんでこんなことしてしまったんだろ」と後悔する。その後はもうヤケクソである。自分一人だけ先に下山する勇気も無いから、歯を食いしばり、しまいにはモーローとなってただただ登る。這々の体で尾根道にたどり着く。水を飲んで、汗を拭いて、しばし死んだようになっている。ところが、しばらく尾根を渡る爽やかな風に当たると元気を取り戻し、それまでの苦労苦痛をいっぺんに忘れる。
 この句は一見、何たる事も無いとすいすい登って来た健脚のようにも受け取れる。しかし、それではつまらない。それでは尾根風の心地よさは伝わらない。この句の作者もそんなスイスイ登山をうたったわけではあるまい。もう言葉を発するのも難儀、体中汗みずくという状態を、「額の汗さらす」で代表させたのだと読み取った。
(水 21.08.15.)

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