くちなしの香りあとおし出勤す  久保 道子

くちなしの香りあとおし出勤す  久保 道子

『季のことば』
 梔子(くちなし)の花は六月から七月にかけて咲く。梅雨に入る前の、庭の植え込みから良い香りが漂って来れば、その正体がこの花である。もともとは山野に自生していた常緑低木だが、艷やかな葉の中に純白のぽってりした花を咲かせる様子と、その香りが愛でられて古くから庭木として改良されてきた。西洋にも似た種類のガーデニア(西洋くちなし)があり、それが日本にも来て混植されている。
 ところで昨年来、コロナ禍によって勤務形態が大きく変わった。通常通り出勤する人数を絞り、社内の三密を減らして職場内でのコロナ感染を防ごうというわけだ。各職場とも出番表を作って、出勤する人と在宅勤務の人とを分け、相互の意思疎通はIT機器を活用して行う。
 私の周りにも甥や姪や、そういう人間が目につく。「お前さん平日なのになんでぶらぶらしてるんだ。クビになったか」「叔父さん、ニュース見てないの。在宅勤務だよ」とバカにされる。
 この句は久しぶりの「出番」の朝の情景であろう。在宅が長引いて、少々腰が重くなっていたのかもしれない。それを梔子の香りに励まされ、重い腰を上げたというわけだ。「いまどき」を詠みつつ、万古不変を感じさせる。
(水 21.08.05.)

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