黙食やつるり飲み込む心太 徳永 木葉
『この一句』
なんとも寂しい、哀しい光景ではないか。一読し、やりきれない想いが募った。暑い夏に涼気を味わい、楽しいはずの食べ物を、ただ黙黙と飲み込むだけ、というのだから。喉越しの爽やかさや仄かな甘味などを、目の前にいる同伴者と分かち合うことも難しいと思われる。そんな今年の夏の姿を、作者は怒りを抑え、堪え、淡々と叙している。
もとより、その原因は新型コロナウイルスにある。だが、ここまで禍を大きくしてしまったのは、政治・行政などの無為無策にほかなるまい。大谷翔平選手が活躍する米国の大リーグのオールスター戦では、観客が大入り満員、マスクもつけず大騒ぎしていた。同じ日、東京は四回目の緊急事態宣言の最中で酒類の提供は禁止という具合だった。
不景気な話は止めよう。今回のコロナをめぐっては「パンデミック」だとか「クラスター」などのカタカナ言葉が跋扈した。と同時に「黙食」とか「人流」など奇妙な漢語めいた言葉も目に付いた。これからの日本語はどうなるのか。そんなテーマで会食し、夜の更けるまで酒を酌み交わしたい。酒をコロナ拡散の元凶のように見る馬鹿な真似はやめて。
(光 21.08.01.)
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