雨止んで迷いミミズを蟻が引く 杉山 三薬
『季のことば』
「蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ」(川端茅舎)という有名な句があるが、「蚯蚓鳴く」は秋の季語。実際には鳴かない蚯蚓が鳴いているように感じる、という秋らしい心象的な季語だが、単に「蚯蚓」といえば夏の季語だ。蚯蚓は土を食べ、糞を出すことで土壌を豊かにしてくれる。見慣れない漢字には丘を作る虫の意味があるという。蚯蚓は皮膚呼吸なので、土中に雨が染み込むと呼吸が苦しくなり地上に這い出す。雨脚が激しいと路上に流され、溺れたり舗道で迷い土に戻れなって死んだりする。
掲句は、雨上がりに路頭に迷い、瀕死の蚯蚓が蟻の餌食になってしまった情景を鮮やかに掬い取った一句。このような自然界の摂理は誰しも見たことがあるはずだ。「あるある」という景を実に魅力的に詠んで、句会では最高点だった。
ところで、「蟻」も夏の季語。この句の場合、蚯蚓の方が物語を多く孕んでいるものの、主役はやはり蟻だろう。作者があえて漢字を遣わず「ミミズ」とカタカナにしたのも、主従をはっきりさせる配慮だと思う。
小林一茶に「出るやいなや蚯蚓は蟻に引かれけり」という句があるが、出てきたばかりのまだ元気な蚯蚓が簡単に蟻に引かれるとは考えにくい。写実ではなく何かの喩えならともかく、掲句の方が写生眼はうわてだと思うが、贔屓目だろうか。
(双 21.07.21.)
この記事へのコメント
迷哲
一茶の句を超えるとは、三薬さん面目躍如です。
双歩