南総の海へ海へと麦の秋 大沢 反平
『合評会から』(日経俳句会)
水馬 海の青と熟れた麦の黄色のコントラストが美しい句。景の大きさも気に入りました。
迷哲 半島の台地に広がる麦畑。風になびく穂先は海に向かいます。雄大な景です。
芳之 海に向かって麦畑が波打っているのでしょうか。「海へ海へ」が効果的です。
弥生 「海へ海へ」と畳みかける表現にスケール感あり。快い風が吹いていたに違いない。
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南総とは昔の上総国の別称で、房総半島の東南部一帯を指す。東京湾と太平洋の二つの海を持つが、景の大きさから九十九里を望む房総台地がピッタリくる。太平洋に向かって眺望が開けた畑で、収穫期を迎えた麦の穂が風になびいている。「海へ海へ」のリフレインがリズム感を生み、吹き渡る風の音や麦のざわめきまで聞こえてきそうだ。
上総、下総の「総」は、房総半島一帯が古代に「総(ふさ)の国」と呼ばれていたことに由来する。麻の実が豊かに実る様子から名付けられたと言われる。後に上総、下総、安房の三カ国に分かれたが、上古より豊饒な土地であった。千葉に住む作者は奥様と房総半島をよくドライブすることがあり、この句を得たとコメントしている。海に向かって黄金色の穂がなびく光景は、作者のみならず、房の国の古代人も眺めたに違いない。
(迷 21.07.16.)
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