駒込に最後の踏切麦の秋 野田 冷峰
『この一句』
駒込という地名にどんなイメージを持つだろうか。神話のなか、日本武尊東征の陣があったという伝説の地。江戸時代にはソメイヨシノ発祥の染井村があった。柳沢吉保の六義園も域内で、歴史的・文化的には由緒ある土地柄である。ところが現代。それらに最寄りのJR駒込駅と言えば実に地味な存在である。一日の乗降客は山手線の駅中26、27位程度に甘んじていて影が薄い。高輪ゲートウエイという新駅もできたが、順位が最下位近いのは間違いない。
この春、山手線駒込―巣鴨間の開かずの踏切が廃止されるとニュースで知った。「へー、まだ山手線に踏切が残っていたとは」と意外に思ったことである。これが最後の山手線踏切だそうだ。円滑な往来と事故防止のために踏切を無くすにしくはないが、いままで顧みられなかった。ということは、それほど往来もなく喫緊の課題ではなかったとも推測する。
長々と駒込雑記を書いたが、本題のこの句である。駒込の様々な事歴とイメージを重ね合わせれば、味わい深い一句と思うのである。山手線に最後まで残っていた駒込の踏切がついに廃止という時事を取り込んで、都会の「麦の秋」を抒情的に詠んだ一句と受け取った。ことに「最後の踏切」の措辞がなんとも言えない。(葉 21.07.09.)
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