白靴のトラック野郎は女なり 中嶋 阿猿
『季のことば』
句を読んで3度驚いた。白靴とトラック野郎の取り合わせにまず驚き、トラック野郎が女と言われて驚き、そして作者が女性と分かってさらに驚いた。
季語は「白靴(しろぐつ)」である。最近はめったにお目にかからないが、昔は男性も含め夏に白い靴を履くことが多かったため、夏の季語となっている。白服、白シャツ、白絣など、いずれも夏の季語だが、季節を問わずカラフルな着物が溢れる現代では、少し古臭く感じる。
掲句はその白靴を大型トラックの運転席から登場させる。トラック野郎とくれば、菅原文太のヒット映画を思い出す。電飾と極彩画に飾られた「デコトラ」に乗った文太が大暴れする痛快シリーズだ。上五中七で白い革靴を履いたトラッカーの文太を想像すると、下五の「女なり」で背負い投げを食らう。作者のたくらみに嵌まって、思わず笑ってしまった。「野郎」という言葉遣いから男性の作だと思い込まされたが、十七文字の中でイメージを逆転させる〝剛腕〟には唸るしかない。
映画の「トラック野郎」は全10作が作られ、女性トラッカーも何人か登場する。中でも第5作で紅弁天役を演じた八代亜紀が印象深い。この映画を機にトラック運転手に八代亜紀ファンが増えたと言われる。白い靴を履いた八代亜紀が大型トラックから颯爽と降りて来る場面を想像しながら句を読み返すと、さらに楽しくなる。
(迷 21.07.02.)
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