激浪を見たいといふ妻青嵐 大沢 反平
『この一句』
大きく立ち上がり、岩礁などに打ち寄せては砕ける激浪。そんな大波を見たい、と奥さんは言った。句の最後に「青嵐」という季語がぽんと置かれている。青嵐が家を揺るがすように吹き抜けて行った後、奥さんはその風音に促され「激浪」を口にしたのだろうか。句からさまざまな思いが浮かぶが、奥さんの心理や激浪に関わることの推理は「この際、不要」と考えたい。
この句を選んだ後、私は「永井龍男の短編を思わせる」とか「俳句の枠を少々超えた句」などという短い感想を述べている。それ以上のことを詳しく説明するのは非常に難しく、「これもまた俳句なのだ」くらいのことでお茶を濁したいのだが、付け加えたいことが残っていた。会社では私と同期、八十歳を超えている作者の「やる気」にまず、拍手を送ろうではないか。
世界一の短詩とされる俳句は、読み手にさまざまなことを考えさせ、頭を捻らせる「小さな文の塊」と言えよう。ところが句会に投句する作品になると、結果(得点)のことが頭に浮かび、なるべく多くの人に理解されるような句作りをしてしまう傾向も否めない。俳句作りの主流を占める中高年者の一人として私はいま、自分に対し「もっと冒険を」と気合を掛けている。
(恂 21.06.18.)
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