冷汁や麦味噌の香の懐かしき 岩田 三代
『合評会から』(日経俳句会)
昌魚 麦味噌の香りはいいですね。冷や汁と合いますよ。
木葉 九州は麦味噌が一般的とか。その麦味噌の香りが懐かしい作者は九州育ちだろうか。冷汁という郷土食に、麦味噌を小道具に使って望郷の念を詠んだのかと想像します。
青水 久しぶりの冷汁に感じたノスタルジアを詠んでいる。幼児より冷汁に親しんだ人の感懐。
迷哲 九州育ちで麦味噌に慣れ親しんだ身には、味と香りが浮かんできて、採らざるを得ません。
十三妹 ふっと笠智衆と東山千栄子のワンシーンが。モノクロで浮かんでくるような……。
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味噌の主原料は大豆だが、麦麹を使ったものを麦味噌と呼ぶ。裏作に麦を作ることの多かった九州と山口県、愛媛県で特に好まれ消費されているという。米麹味噌に比べて塩分が低く、麹の量が多いので甘みが強く、香りも豊か。愛媛育ちの作者は冷汁を久しぶりに食べて、麦味噌の香に故郷を懐かしく思い出したのであろう。
冷汁は出汁と味噌で味付けした汁をご飯にかけて食べる郷土料理で、宮崎、埼玉、山形など日本各地に残る。南伊予には、鯵と麦味噌を磨り混ぜて出汁で溶いた「さつま」と呼ぶ冷汁があると聞く。作者は麦味噌の味わいとともに、故郷・愛媛の山河や、そこに暮らす人々に思いを馳せたに違いない。
(迷 21.06.02.)
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