白牡丹折り目正しく咲きにけり 塩田 命水
『この一句』
「牡丹」の句には擬人の句が多かった。メールで集まった四十弱の牡丹の句のうち、実に半数近くが擬人の句、あるいはそれに近い句であった。俳句を作る際に、擬人化は少し警戒するのが普通なのに、この多さは何としたことだろう。牡丹のあの大輪ですっくと立つ姿が、人の立ち姿に似ていて、詠む者をおのずと擬人化に走らせるのかもしれない。
句の中に、「楊貴妃」、「女王」、「熟女」などの言葉が散見され、女性、それも成熟した身分のある女性に喩える句が多い。また、その振る舞いに目を転じれば、「闇を抱える」、「泰然と風に頷く」、「妖しく揺れる」のような表現が続く。いずれも女性の妖しくも堂々とした姿を想起させる措辞である。かく言う筆者も、「待つごとく誘ふがごとく白牡丹」と、やはりこの傾向に近い句を詠んでいる。
そんな句が多い中で、掲句は「折り目正しく」という措辞により、同じ擬人化ではあってもずいぶん印象の異なる表現になっている。この措辞は、清楚でなおかつ凛とした姿を想起させ、妖艶さのようなことからはほど遠いイメージを読む者に与える。この句を念頭において改めて白牡丹を見ると、なるほどこの表現もまた、写生句として正鵠を射ているように見えるから不思議だ。写生するとは、つまり、見る者の心中を写す作業に過ぎないのかもしれない。いずれにせよ、他の擬人の句とは一線を画す、斬新でユニークな一句である。
(可 21.05.30.)
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