遺影持て神輿見送る漁師町    廣田 可升

遺影持て神輿見送る漁師町    廣田 可升

『この一句』

 「漁師町」はなかなか魅力的な言葉だ。漁業という生業に町をつけただけだが、内包するイメージがとても豊かで響きも良い。土地柄を表すこんな例は、ほかにあるだろうか。例えば発音は同じだが、猟師町とは聞いたことがない。農家が集まっていれば農村だが、あまりにも漠然とし過ぎていて焦点が定まらない。「港町ブルース」ではないが、全国津々浦々にある漁師町。例えば、青森・大間、宮城・石巻、和歌山・太地、熊本・水俣などなど、それぞれ物語がありそうで大いに想像力を掻き立てられる。「なるほどなぁ、と頷きつつ、一句を鑑賞した。これはやはり、漁師町が一番似合いそうな風景だ」と而云さんの言うように、この句の漁師町は、季語よりも雄弁かもしれない。
 主語はないけれど、漁港での夏祭を遺影に見せている漁師の女房、という映像が浮かぶ。「板子一枚下は地獄」の漁師だけに水難事故はつきものだろう。あるいは津波にのまれた犠牲者なのだろうか。読者はそれぞれ想いを馳せる。「遺影手に」としそうなところを「遺影持て」と表現したきめ細やかさも見逃せない。「持て」で遺影の“重み”が伝わってくるのだ。メール句会で最高点を取ったこの秀句を、うかつにも見逃した筆者は、ただ恥じ入るばかりだ。
(双 21.05.26.)

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