新築の隣家に新品鯉のぼり    堤 てる夫

新築の隣家に新品鯉のぼり    堤 てる夫

『合評会から』(酔吟会)

水牛 お隣さんの新築成って、引っ越してきたなと思っていたら、真新しい鯉のぼりが翻った。小さな男の子のいる若い一家だったのだ。爽やかな五月の風を感じます。
三薬 なんということもない風景。でも、閉店、廃屋、老朽化などばかり目立つ昨今、この風景が新鮮に感じられる。
青水 鯉のぼりのたたみ皺まで見えてくるような初々しさが良い。
春陽子 新築の家に鯉のぼり、しかも新品だから初節句でしょう。昭和三十年代頃には日本中で見られた風景で、気持ちを明るくさせてくれます。
二堂 新しい家の新しい家族が偲ばれます。
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 鯉のぼりが空に泳ぐ姿は都市部ではほとんど見られなくなった。郊外から山間部へ行けば今も見られる光景ではあるが、それでも少子高齢化が続くなか、その数は激減しているに違いない。ところが、この句はお隣に新築の家が立ったかと思うと、いきなり真新しい鯉のぼりが翻ったという、今どき稀有な光景である。どの評者も口を揃えるように、「爽やかさ」、「新鮮さ」、「初々しさ」、「明るさ」を感じさせてくれる、まことにおめでたい一句である。「新築」、「新品」と「新」を重ねた技巧が、うまく功を奏して、清新の気分をさらに高めている。
(可 21.05.18.)

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