蜂飛来げんげ畑や岩木山 工藤 静舟
『おかめはちもく』
津軽富士と言われる壮麗な岩木山。麓には林檎畑や緑野、山林が広がる。また全長20kmの「世界一の桜並木」がお山に向かって延々と続き、4月下旬から5月初めまで等高線を登りつつ咲き続ける。リンゴが咲き、ゲンゲが咲き乱れる頃になると、養蜂家がミツバチの巣箱を車に積んで集まって来る。一帯が最も華やかににぎやかになる頃合いでもある。
青森県人、ことに津軽の人たちは郷土を愛することこの上ない。「津軽富士なんて言ったって、わずか千六百メートル」などと言おうものなら、しばらくは口もきいてくれなくなる。作者も根っからの青森の人である。郷土をうたいあげた句がとても多い。地元のことを知らないとよく分からない句が出てくることもあるが、概ねは心温まるものが多い。
この句も「ああ津軽に春が来た」という喜びに満ち溢れている。実に感じの良い、素直な句なのだが、句会ではあまり注目されなかった。その原因はどうやら言葉の並び順にギクシャクしたところがあるせいではなかろうか。「蜂飛来」で切れが生じ、「げんげ畑や」で大きく切れ、結語の「岩木山」となる。いわゆる「三段切れ」である。もう少しなだらかに詠んだ方がいい。
古くは弘前藩のお殿様から下々まで岩木山を崇め、「お岩木山」と敬称を付けて呼び、それは今も続いているという。それを援用し、お岩木山麓に広がるげんげ畑を印象づける「蜂飛来お岩木山のげんげ畑」というのはいかがだろう。
(水 21.05.09.)
この記事へのコメント