幼子がブランコせがむ遅日かな   篠田 朗

幼子がブランコせがむ遅日かな   篠田 朗

『季のことば』

 こんど日経俳句会に入会した人の初めての作品である。長い会社務めから解放され、趣味の世界へ足を踏み入れてみようかという作者だ。日ごろ孫の世話が大変だと言って入会を躊躇していたが、やっと俳句に浸れる状況になったらしい。
 「遅日」という季語。なににでも合わせられるようで、これが遅日だとぴったりくる句を作るのはかなり難しい。時候、天文、地理、日常生活、行事などあらゆる事象を「遅日」に掛けあわせて作句が可能と思え、それだけにありきたりになりやすい。動物や植物と掛けても同様である。そこに作者は「ぶらんこ」を持ってきた。これも春の季語だとは思ったか思わなかったか。それはこのさい問題ではないだろう。ちなみに歳時記に載る「鞦韆」という重厚な漢語と「ぶらんこ」「ふらここ」の間には、同意の季語ながらなにやら別物のような気分がする。あまりにも三つの言葉の開きが大きい。
 季語はあくまで「遅日」。「ぶらんこ」は添え物であって、この句は暮れなずむ春の日の夕刻間近を主題として詠んだものだと分かる。孫の面倒をみる作者がせがまれて公園の遊具に向かう。しょうがないなあ、日暮れも近いけど行ってやらねばならないなという作者の心情と生活の一部が覗けた初作品となった。
(葉 21.04.30.)

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