偲ぶ雨枝も重かろ八重桜 工藤 静舟
『この一句』
「偲ぶ」は「過ぎ去ったこと、離れている人のことなどを密かに思い慕う(広辞苑)」こと。例えば、「偲ぶ会」には故人と親しかった人が集う。掲句も亡くなった親しい人を想っているのだろう。雨の日に、満開の八重桜を眺めていたら雫の重みで花がうなだれていた。あんないいヤツが先に逝ってしまうなんて……。ついつい、友を偲んでいる自分に気づく。論語に「朋友切切偲偲」という一文があって、友達とはいつも心を込めて励まし合う、という意味らしい。「偲」の字を遣った作者の思いが読者に響く。
同じ句会には、「こでまりを愛した人を偲ぶ朝」(池村実千代)という句もあった。この句の作者は最近、最愛の伴侶を亡くしたと聞く。こでまりの花が好きだったのだろう。こでまりは、花言葉の「優雅」「上品」にふさわしい気品のある花だ。きっと、お洒落で素敵なご主人だったに違いない。「こでまりを愛した人」と婉曲的な言い回しだが、「こでまりや愛した人を偲ぶ朝」と「や」で切ってみると、作者の心情がストレートに伝わる。
「偲ぶ」に込められた思いは、それぞれ違うもののそれぞれ深い。
(双 21.04.28.)
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