鳩時計五分遅れて鳴るうらら 廣田 可升
『この一句』(酔吟会)
鳩時計、ほとんど見ることがなくなった昔懐かしい時計だ。ぽっぽっぽっと鳴きながら鳩が顔を出して定時を告げる。デジタル全盛の今は骨董品的な扱いに甘んじている。鳩時計専門店もあるようだが、一般の時計店に行ってもお飾りほどの存在でしかない。当然アナログだから電波時計のような寸秒も狂わない正確さはないが、目にしただけでなんだか癒されるのは間違いない。そもそも鳩時計という小道具自体が俳句と言っていい。春の麗らかさを詠むのに鳩時計を持ってきた作者は手練れの人である。
作者の家には鳩時計があって、居間のアクセサリーになっているのではないかと想像する。しかしこの鳩時計は機械仕掛けの悲しさ、ものの一カ月もしない間に遅れが出てくる。ものぐさではない作者は律義に時間調節をするのだが、やっぱり遅れる。テレビを見ていて正午のニュースでも始まったのだろうか。鳩時計を見上げると五分遅れている。まあいいや、正確な時間はスマホでもパソコンで見られる。いまは放っておこうという雰囲気がほのかに見えるようだ。五分遅れているのを頭の中に入れておけばいいだけだというのが、「うらら」なのだ。「鳴るうらら」とした下五は効果的である。「うららかや五分遅れる鳩時計」という詠み方もできそうだが、圧倒的に掲句の方がいい。
(葉 21.04.11.)
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